「港区マンションコラム」
⑦港区マンション価格は5年後・10年後どうなるのか
(2026年3月25日作成)
香港・ニューヨーク・ロンドンと比べると、東京はまだ「完成した高値圏」ではない
港区マンションの5年後、10年後を考えるとき、いちばん先に外すべき前提は「日本の住宅市場の延長で港区を読む」という発想です。港区の価格は、もはや日本人だけの所得や国内景気だけで決まっていません。比較すべき相手は、郊外や地方都市ではなく、香港、ニューヨーク、ロンドンです。Savills の 2025 年上期データでは、プライム住宅の価格水準は香港が平方フィート当たり 3,720 ドル、ニューヨークが 2,610 ドル、東京が 2,330 ドル、ロンドンが 1,900 ドルでした。同じ期間の価格変動率は、東京が +8.8%、ニューヨークが +0.9%、ロンドンが -1.6%、香港が -3.5% です。ここから読み取れるのは単純で、東京はもう安い都市ではないのに、まだ「完成しきった高値圏」でもない、ということです。価格水準は香港やニューヨークより下にありながら、上昇率では上位にいる。港区の将来を考えるうえで、このねじれが出発点になります。
このねじれを理解するには、他の国際都市がどの段階にあるかを見る必要があります。香港は、世界有数の高価格市場になったあと、2021 年ピークから住宅価格が約 30% 下落し、2025 年になってようやく年率で小幅のプラスに戻りました。国際都市であることと、価格が上がり続けることは別だと示した都市です。ニューヨークは逆に、強さがすでに価格に織り込まれた成熟市場で、価格は高いが伸びは鈍い。ロンドンも世界都市であり続けていますが、価格の伸びは弱く、東京のような加速は見られません。つまり東京は、香港ほど行き過ぎておらず、ニューヨークほど成熟しきっておらず、ロンドンほど勢いを失ってもいない。その中間にいるからこそ、港区はまだ「上がる余地」を残しています。
では、その余地を支えているのは何か。第一に、世界経済の名目成長です。IMF は 2026 年 1 月時点で、世界成長率を 2026 年 3.3%、2027 年 3.2% と見込み、世界インフレは鈍化方向にある一方で、地政学的緊張や供給ショックが再び物価を押し上げる下振れリスクを示しました。実際、2026 年 3 月には中東情勢の悪化によるエネルギー高が、成長の下押しとインフレ再加速のリスクとして警戒されています。これは何を意味するか。2010 年代のような「低インフレ・低コスト・低金利」が長く続く世界には戻りにくい、ということです。名目価格が高止まりしやすい世界では、土地、建築費、人件費の下限も切り上がりやすく、都心不動産は簡単には安くなりません。港区の価格が高止まりしやすい大前提は、ここにあります。
第二に、アジアの成長です。世界銀行の 2025 年 10 月の East Asia and Pacific Economic Update では、中国は 2026 年 4.2%、中国を除く東アジア・太平洋地域は 2025 年 4.4%、2026 年 4.5% と、世界平均を上回る成長が見込まれています。重要なのは、アジアの成長率が高いことそのものではなく、富と可処分資金の増加が今後もこの地域に集中しやすいことです。アジアで増えた資金は、必ずしもそのまま自国の不動産にだけ向かうわけではありません。政治、法制度、通貨、教育、治安の面で相対的に安定した都市へ逃避・分散しやすい。その受け皿の一つが東京であり、東京の中でも最も国際資金と親和性が高いのが港区です。港区マンションは、国内需給だけでなく、アジアの余剰資金の受け皿としても位置づけられ始めています。
第三に、人口移動の質が変わっていることです。日本全体では人口減少が続いていますが、東京は違います。東京都の住民基本台帳では、2025 年 1 月 1 日時点の東京都人口は約 1,400 万人で、そのうち外国人は 72 万 1,223 人と前年比 11.4% 増でした。さらに出入国在留管理庁によれば、2025 年 6 月末の在留外国人数は全国で 395 万 6,619 人と過去最高です。ここで大事なのは、単に「外国人が増えている」という表面的な話ではありません。東京の中心部は、就労、高度人材、経営管理、留学、家族帯同を含む居住する国際人材の受け皿になっているということです。港区は外資系企業、大使館、インターナショナルスクール、医療、交通が揃っており、その受け皿としての条件が非常に強い。将来の港区相場は、日本人だけの世帯形成ではなく、国際人材の定着で支えられる部分が大きくなります。
さらに長期で見れば、アフリカを含む新興地域の人口増加と都市化も無視できません。国連の 2025 年版 World Urbanization Prospects と OECD の Africa’s Urbanisation Dynamics 2025 によれば、アフリカの都市人口は 2020 年の約 7.17 億人から 2050 年には約 14 億人へ倍増する見通しです。これは「明日アフリカの富裕層が港区を買う」という短絡的な話ではありません。長期的に見れば、人口と都市化のフロンティアが広がるほど、世界の資本はより一層、透明性が高く、安全で、流動性のある中枢都市へ集まりやすくなるということです。ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、ドバイ、東京が持つ意味はそこにあります。東京がそのポジションを維持できる限り、港区は世界人口動態の変化と無関係ではいられません。
ここに日本特有の金融条件が重なります。日銀の 2026 年 1 月 Outlook Report では、政策金利引き上げ後も「金融条件は緩和的」とされ、無担保コール翌日物金利は 2025 年 12 月の利上げ後も 0.75% 程度で推移しています。世界の主要都市が高金利を経た後でも、日本はなお相対的に低金利です。高額不動産市場にとって、これは決定的な差です。香港のように米金利に大きく連動する市場でもなく、ロンドンのように政策で高額住宅市場を意図的に冷やしているわけでもない。東京は、国際資本から見れば、なお資金調達しやすく、為替次第では割安感もある市場です。港区マンションが簡単に崩れにくい背景には、この金融条件の特殊性があります。
供給側も東京に有利です。東京都心では、まとまった住宅用地を新たに供給する余地が限られています。2025 年の地価公示では、全国平均地価が 4 年連続で上昇し、東京圏の住宅地も上昇が続きました。港区のような中心部では、土地取得コストと建築費上昇が、新築価格の下支え要因として効き続けます。需要が強くても供給が増えない市場は、価格が下がりにくい。港区の将来を読む際に「買いたい人が減るかどうか」だけを見ても不十分で、そもそも良いものを十分に増やせないという供給制約まで見ないと、答えを外します。
以上を踏まえると、5 年後はかなりはっきり言えます。港区マンション市場全体が 5 年で大きく崩れる確率は高くありません。 世界インフレの高止まり、アジアの相対的な高成長、東京への国際人材流入、低金利、供給制約、そして東京が香港より安く、ニューヨークより未成熟で、ロンドンほど制度逆風を受けていないことを合わせると、全体像は「大幅下落」ではなく「底堅さ」です。私の見立てでは、5 年スパンでは港区全体の価格帯はおおむね横ばいから緩やかな上昇が中心で、局地的な調整があっても、香港型の大きな下落シナリオは主流ではありません。
ただし、10 年後は一律の強気ではありません。10 年後に起こるのは、港区全体の上昇ではなく、港区の中の階層化です。 世界の資本は、都市単位だけでなく、都市の中の物件単位で選別を強めます。立地、管理、流動性、再開発との距離、国際人材にとっての住みやすさ、築年と設備水準。こうした条件を満たす物件には資金が集まり続ける一方で、「港区アドレス」だけでは守られない物件も増えるはずです。だから 10 年後の結論は、「港区は上がる」ではありません。港区の中でも、世界の資本に選ばれる物件は上がり、そうでない物件は停滞します。
結論、港区マンションの 5 年後は“崩れない市場”、10 年後は“選ばれる物件だけがさらに上がる市場”です。 その理由は、日本国内の話ではなく、世界インフレの残存、アジアの成長、東京への国際人材流入、低金利、供給制約、そして東京が主要国際都市の中でまだ「価格が完成しきっていない」ことにあります。港区を読むとは、日本の不動産市況を見ることではありません。世界のお金が、どの都市の、どの資産に逃げ込み、残り、積み上がるかを見ることです。そこまで視野を上げると、港区の未来は「抽象的に強い」のではなく、強く残る理由がはっきりある市場として見えてきます。
[免責事項]本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の不動産取引や価格を保証するものではありません。最終的な判断は、個別の状況をご確認のうえご自身の責任にて行ってください。